新たな神経栄養因子の探索 

 未分化な神経芽細胞の増殖と分化、或いは成熟した神経細胞の生存と機能の維持、促進する因子を一般に神経栄養因子という。さらに、神経栄養因子は、神経組織が障害を受けると一時的に合成分泌が亢進され、組織の変性脱落の予防や機能修復に関与するlesion factorとしての性質を示す。近年、この神経栄養因子の検索ならびにその機能解析に多数の研究者がチャレンジして成果を挙げている。神経栄養作用を示す因子は必ずしもいつも標的組織と直接関係した細胞で見い出される訳ではない。特定の細胞に限らず、多くの細胞によっても合成分泌されている。培養細胞が生存するためには、一般的に血清あるいは特定の因子を必要とする。また細胞によってはこの因子をオートクライン(autocrine)的に生存を助けていることもある。私達は神経分化のモデルとして広く用いられているPC12細胞を用いて新規な因子の解析を行っている。PC12細胞は ラット副腎褐色細胞腫由来の細胞株で、血清存在下で培養すると増殖し、血清非存在下でNGFが存在する環境では突起を伸展して神経細胞様に分化する。また、PC12細胞は、血清や神経栄養因子非存在下で培養するとアポトーシスで死に陥る。私は、抗アポトーシス因子として知られるbcl-2遺伝子をPC12細胞(bcl-2 /PC12細胞)に導入した細胞株を樹立した。この株は、血清非存在下でも存在し、興味あることには、無血清培地で培養を続けると突起を伸展して、神経細胞様に分化することが分かった。私はこの培養上清から生存活性と分化促進作用を有する蛋白を検索し、その蛋白と遺伝子を同定することが出来た。現在、この蛋白の生理活性作用や生体での分布を解析すると共にlesion factorとしての性質を調べている。生体での分布や培養細胞での発現によってこの蛋白の様々な性質が分かってきた。興味ある人の参加を期待します。

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